全体講評
全国の高校生から、総数435件もの個性あふれる地域探究論文の応募をいただきました。分野ごとの一次審査を経て、二次審査にすすんだ候補論文の中から、厳正な審査によって津軽賞をはじめ、優秀賞、佳作、特別賞を決定いたしました。
受賞した作品に限らず、高校生らしい身近な主題から問題意識を掘り下げて、社会的な意義を考え、未来に向けての提案がなされたものが多かったことに審査員一同、感激と感動でした。題名を眺めてみるだけでも、彼らの視点がいかに多種多様であるか、また探究の手法がバリエーション豊かであるかがわかります。
ひとりひとりがしっかりと地域を見つめ、他者に思いを理解してもらえるよう工夫をこらして挑んだ軌跡が表れた小論文の数々-。地域だけでなく、日本の、そして世界の未来をになう高校生たち―。彼らの純粋で力強い作品に触れることができ、能力の高さや資質の素晴らしさを実感し、教育者・研究者としても勇気づけられました。
応募はひとつのチャレンジです。受賞の有無に関わらず、新しいことに果敢に挑んだその姿勢だけで称賛されるべきことだと思います。応募下さった高校生それぞれが、この機会を自らの前進の証ととらえ、今後の成長と飛躍につなげて下さることを願っています。
次年度、また全国各地の高校生と素敵な地域探究論文に出会えることを楽しみにしています。
津軽賞実行委員会委員長
郡 千寿子(副学長)
個人部門
津軽賞(最優秀賞)
受賞者氏名 |
石川朱澄 |
高等学校名 |
奈良県立郡山高等学校(奈良県) |
分野 |
分野2「技術・環境・食」 |
小論文タイトル |
トゲチシャから考える奈良の自然 |
講評
古都であり故郷である奈良の自然の現在と未来について、トゲチシャという帰化植物の植生調査や実験を通じて考察した論文です。ひとつの植物を起点に、広く地域の環境や風景のあり方を考えるという、ミクロな視点とマクロな視点とをつなぐ構成がすぐれています。
同時に、この論文は「古都の趣」とは何かということを読者に問いかけます。それは単に建築といった人工物の維持や制限によって保たれるものではなく、植物をはじめとした自然環境までをも含むものである、という問題意識は、人文社会科学にも通じるものであり、これからのあるべき学問の形、文理融合を体現しています。
多くの人びとにとって、日常生活のなかであまり気に留めることのないもの、何気ない足元をしっかりと見つめ、現状を捉え、起こりうる可能性を分析したうえで拡大を防ぐべきであるという問題提起は、すぐれた観察眼から地域の未来を指向しているという点で、「津軽賞」にふさわしいものと評価できます。
優秀賞
分野1 「歴史・文化・社会」
伝統工芸である「南部菱刺し」は、日本の三大刺し子の一つであるが、知らない人も多い。美しく豊富な文様の南部菱刺しの特徴に注目して開発したカードゲームを、現在、地域の歴史館に置いてもらい来館者の意見を集めている、という北向さんの研究活動から、魅力的な文化を知ってもらおうとする熱意が伝わってきます。開発されたゲームも、シンプルなだけに想像力をかきたてられる完成度がありました。歴史館に働きかけ、実際に来館者に遊んでもらう行動力も、大変すばらしいものです。何かに熱中した経験は、いろいろな形で実を結びます。優秀賞への選出おめでとうございます。
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
江良風花 |
高等学校名 |
弘前学院聖愛高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
白神山地の遺産地域内におけるオオバコの繁殖について |
地元にある白神山地世界遺産地域に、外来植物であるオオバコが繁殖しているという記事を見たのが動機となり、繁殖を抑えるための独自の仮説を立てて実験を重ね、検証を行った経緯が述べられています。期待した結果は得られなかったということですが、オオバコの特徴や、自然遺産の維持につながる駆除の重要性がよく伝わる内容となっています。関連する参考文献(URL)や、実験の様子を収めた図(写真)も適切に示されており、優秀賞にふさわしいと評価しました。
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
清野あかり |
高等学校名 |
弘前学院聖愛高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
りんごで健康寿命を改善する |
「青森県は短命県である」という地域が抱える問題に対して、地域の特産品であり身近な果物でもあるりんごに注目し、「歯を健康にするりんごで健康寿命が改善するのではないか」という仮説を立てて、知的かつ体験的に探究を進めた論文です。
文献調査では、「残存歯を残す」という視点でりんごの成分や効果を明らかにするとともに、対立意見に対して事実的データに基づいた反駁を加えています。また、高校生の自分にできる範囲でりんごの品種の比較実験を行い、考察しています。地域課題の解決に向け、一人の生活者として足元から行動して提言を導き出す姿には、地域の未来の創り手としての可能性も感じられました。
佳作
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
村里和香 |
高等学校名 |
岩手県立一戸高等学校(岩手県) |
小論文タイトル |
縄文人と焼失竪穴 |
受賞者氏名 |
藤本佳子 |
高等学校名 |
学校法人土佐高等学校(高知県) |
小論文タイトル |
移住政策について鳥取県と島根県を比較した |
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
深田沙良 |
高等学校名 |
大和高田市立高田商業高等学校(奈良県) |
小論文タイトル |
金魚掬いと人の関りについての研究 |
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
横内敬文 |
高等学校名 |
学校法人成田山教育財団成田高等学校(千葉県) |
小論文タイトル |
地域の高校生が主体となって取り組む学校防災教育への提言 |
受賞者氏名 |
ライアン優仁 |
高等学校名 |
立命館大学慶祥高等学校(北海道) |
小論文タイトル |
地方に新たな馬ビジネスを~ホースセラピーから見えてくる馬の可能性
|
特別賞
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
高瀬貴子 |
高等学校名 |
学校法人普連土学園高等学校(東京都) |
小論文タイトル |
なぜ石川島に人足寄場ができたのか? |
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
髙橋七海 |
高等学校名 |
栃木県立栃木農業高等学校(栃木県) |
小論文タイトル |
つなぐ、ひろがる |
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
小野陽南姫 |
高等学校名 |
青森県立弘前中央高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
「居場所作り活動 ~不登校児のために~」 |
グループ部門
津軽賞(最優秀賞)
受賞者氏名 |
髙田江梨花、髙崎明音 |
高等学校名 |
高崎商科大学附属高等学校(群馬県) |
分野 |
分野1 「歴史・文化・社会」 |
小論文タイトル |
「海なし」の群馬県における竜宮伝説 |
講評
伝説や伝承には人を引きつける力があります。そこにはその時代を生きた人びとの憧れ、願い、恐れ、戒め、といった様々な思いが込められています。加えて事実かどうか判然としない「謎」が、探究への意欲をかき立てます。この論文は、「海なし」県である群馬県においてなぜ「浦島太郎」の竜宮伝説が存在するのか、その「謎」解きに取り組んでいます。その過程には読む者をワクワクさせる楽しさがあります。
筆者たちは実際に伝説ゆかりの場所に赴き、現地に記録された伝承を調査します。単に書き記された内容を知るだけでなく、「水」のある場所という感覚を得たところにフィールドワークの醍醐味を感じることができます。
そのうえで群馬県の竜宮伝説が貸椀伝説の系譜に連なることを発見します。民俗学者・柳田国男の貸椀伝説を敷衍して、「木地師」という職人集団の存在に注目しながら、自分たちの地域の伝説の起源を捉えています。
もっとも、この論文の結論は、現時点ではひとつの仮説です。それだけにさらなる考察への期待を抱かせます。容易には解けない「謎」に挑む好奇心とそこから生まれた仮説は、これからのより深い地域の探究への可能性を感じさせる点で、「津軽賞」にふさわしいといえます。
優秀賞
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
伴瀬拓己、植木猛至、松岡明希 |
高等学校名 |
栃木県立矢板東高等学校(栃木県) |
小論文タイトル |
栃木県北部の雷信仰について |
栃木県は雷が多い。文献や展示資料から栃木県の雷信仰をたどるうち、雷鳴や雷光に敏感な「猫」に対する信仰、とくに県内の「猫碑、猫像」の存在を知った。ところが地元の矢板市に点在する石碑や石仏には馬頭観音像が多く、雷信仰をもつ神社を含めて、猫碑、猫像は存在しない。これはどういうことだろうか、という本研究は、次々に調査を展開させる姿勢が優れていました。疑問を簡単には解決したことにしないで、次の疑問を持ち続けています。高校での学習の合間に時間をかけて調べ回るのは大変なことで、研究グループに敬意を表します。受賞おめでとうございます。
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
中居 佑太、内山大雅 |
高等学校名 |
青森県立弘前中央高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
炭酸カルシウム系水産廃棄物を用いた金属イオンの回収 |
青森県の特産品であるホタテやシジミに焦点をあて、廃棄物である貝殻の有効活用に向けた可能性探索の結果をもとに書かれています。この論文から、地域産業が抱える問題を掘り下げ、科学的なアプローチに沿って順序立てて解決作を探っていくプロセスが明解に述べられています。実験結果をもとにして、将来的な可能性についても考えを巡らせており、将来的な拡がりの期待を感じられる優秀賞にふさわしい論文です。また、実験結果のグラフや写真も適切にまとめられていました。優秀賞への選出おめでとうございます。
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
嘉手苅日向大、竹内裕生 |
高等学校名 |
青森県立弘前中央高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
栄養素に着目した水害による廃棄リンゴの二次的利用に向けた提案 |
台風による水害などにより、廃棄処分となる農作物の対処は大きな問題です。筆者らは、弘前市の特産物であるリンゴに着目し、廃棄リンゴの利用法について調査研究を進めました。廃棄されるリンゴを単にジュースなどの加工品として利用するのではなく、リンゴに含まれるペクチンが持つキレート作用や起泡力について研究を実施し、新しい飲料水や入浴剤の商品化を提案しました。
得られた研究結果に基づいた独創的な提案であり、農産物の廃棄処分の解決にとどまらず、地域の活性化にもつながることが期待される内容だと感じました。
佳作
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
富士大成、岩渕真央、千葉虹音 |
高等学校名 |
学校法人一関学院一関学院高等学校(岩手県) |
小論文タイトル |
消えた天才~大槻玄沢の生きた証を取り戻せ~ |
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
山本球児、工藤稜太 |
高等学校名 |
青森県立柏木農業高校(青森県) |
小論文タイトル |
果樹剪定枝の燻製チップ加工による未利用資源活用および地域振興 |
受賞者氏名 |
青柳達也、茨木蒼太、酒井謙心 |
高等学校名 |
栃木県立宇都宮白楊高等学校(栃木県) |
小論文タイトル |
かんぴょうから地域農業を考える |
特別賞
該当なし
小論文投稿数(各集計)
地域別
地域名 |
投稿件数 |
青森県 |
59 |
北海道・東北(青森県以外) |
46 |
関東 |
43 |
中部 |
124 |
近畿 |
49 |
中国 |
8 |
四国 |
103 |
九州 |
3 |
計 |
435 |
※参考 都道府県別の上位3位迄
都道府県名 |
投稿件数 |
愛知県 |
124 |
高知県 |
103 |
青森県 |
59 |
部門別
部門 |
投稿件数 |
個人部門 |
376 |
グループ部門 |
59 |
計 |
435 |