全体講評
全国-北は北海道から南は沖縄まで-の高校生から、総数516件もの個性あふれる地域探究論文の応募をいただきました。分野ごとの一次審査を経て二次審査にすすんだ候補論文の中から、厳正な審査によって津軽賞をはじめ、優秀賞、佳作、特別賞を決定いたしました。
素晴らしい受賞作品についての講評は個別にしますが、受賞を逃した作品の中にも興味深く面白いものが多く、審査の時間は充実した楽しい機会でもありました。高校生らしからぬ発想や情報収集力、そして思考を整理する過程に驚きました。その一方で、少し残念な点としては、引用や出典の明示がない作品があったこと、インターネットに依存した調査等でまとめられ、他者の研究成果や考えと自己の探究の成果や考えとの区分が曖昧な作品があったことです。今後、留意していただければと思います。
取り上げられたテーマは多岐にわたり、高校生の視野の広さも実感しました。自分に関わる身近な課題、地域や社会の課題、世界的規模の課題もあり、探究しながら未来に向けての提案がなされた作品の数々に感動しました。題名を眺めてみるだけでも彼らの視点がいかに多種多様であるか、また探究の手法がバリエーション豊かであるかがわかります。
日本の、そして世界の未来をになう高校生たち―。彼らの今後の活躍を確信することができ、教育者・研究者として勇気づけられました。受賞の有無に関わらず、新しいことに果敢に挑んだその姿勢だけで称賛されるべきことです。応募下さった高校生それぞれが、この機会を自らの前進の証ととらえ、今後の成長と飛躍につなげて下さることを願っています。
津軽賞実行委員会委員長
郡 千寿子(副学長)
個人部門
津軽賞(最優秀賞)
受賞者氏名 |
市川智史 |
高等学校名 |
新潟県立長岡高等学校(新潟県) |
分野 |
分野3「ライフ・健康・教育」 |
小論文タイトル |
地域固有種保全の新観点と郷土教育活動 |
講評
受賞者が小学生の時から保全活動に取り組んでいる魚「トゲソ」を通し、絶滅危惧種の保全に対する教育の重要性が書かれた論文である。この論文の特に素晴らしい点は、絶滅危惧種の保全に対し、従来行われてきた生息数調査や生息環境等の科学的視点だけでは不十分と捉え、「社会的保全」という受賞者による新たな視点を教育に取り入れる必要性について説得力をもって論じていることである。地域の小学生と中学生にアンケート調査を実施し、総合学習の現時点での教育効果を把握した上で、郷土教育の在り方への提言を行っている。
受賞者の地域だけでなく、他の地域の未来への提言につながると感じられる小論文であり、「津軽賞」にふさわしいといえます。
優秀賞
分野1 「歴史・文化・社会」
本論文は天間村が明治初年から急激に先進村として発展した要因について、史料を参照しつつ検討した結果、質の高い教育が背景にあったことを考察します。
論文構成として必要な背景、課題の明示、目的、分析、考察までの流れがしっかりしており、分かりやすい論文でした。さらに、小論文という条件下であるにもかかわらず、一次史料を引用し、史料に関するオリジナルな図表を作成して、具体的に分析されている点は、研究者として最も大切な姿勢です。さらに考察によって、単に地域研究にとどまらない現代教育に対する提言は、思い付きでなく説得性があり、著者の視野の広さを感じさせます。以上より、本論文を高く評価します。
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
高橋海渡 |
高等学校名 |
青森県立柏木農業高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
りんご剪定枝和紙を活用した新時代のねぷた |
津軽地域の課題であるリンゴ剪定枝の処理問題と観光資源であるねぷたを結びつけ、剪定枝和紙として甦らせることで有効活用する取組を題材としており、この取組を実現していく上での様々な課題についていろいろと考察されています。課題の解決に向けて一歩ずつ進めていく姿に共感を覚えました。受賞おめでとうございます。
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
小澤和佳乃 |
高等学校名 |
学校法人KTC学園 屋久島おおぞら高等学校(鹿児島県) |
小論文タイトル |
農業で市民参加型の地域づくりを考える |
より住みやすい街にしていくためには、その地域に住む人々が積極的に自ら参画することが必要不可欠です。筆者は、有休農地を有効活用し、化学肥料や農薬を使用せずに野菜等を栽培することを通して、住民参加型の地域づくりを進めることを提案しています。筆者も述べていますが、この提案を実施することにより、人々の交流も増えるだけでなく、健康への意識も高まることが期待されることから、非常に興味深い提案と感じました。
さらに筆者は、シロツメクサと貝殻、卵の殻の配合条件を変えた複数の土壌を準備し、自らブロッコリーの苗を育てる実験を行い、最も生育に優れた条件を決定しました。科学実験を通して、地域づくりに応用できる栽培法を提案したところもこの論文の優れた点であると考えます。
佳作
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
南川百太 |
高等学校名 |
慶應義塾湘南藤沢高等部(神奈川県) |
小論文タイトル |
藤沢市の交通渋滞によるバス遅延問題について |
受賞者氏名 |
櫻井翔真 |
高等学校名 |
早稲田大学高等学院(東京都) |
小論文タイトル |
石見銀山と魅力あふれる街 大森町 |
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
緒方苗茉 |
高等学校名 |
慶應義塾湘南藤沢高等部(神奈川県) |
小論文タイトル |
藤沢市の指定ゴミ袋と環境問題への取り組み |
受賞者氏名 |
遠山夏町 |
高等学校名 |
広尾学園高等学校(東京都) |
小論文タイトル |
もうひとつの選択肢 |
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
植村理央 |
高等学校名 |
福島県立相馬高等学校(福島県) |
小論文タイトル |
処理水の出前授業について |
受賞者氏名 |
中山寛飛 |
高等学校名 |
慶應義塾湘南藤沢高等部(神奈川県) |
小論文タイトル |
藤沢市をより認知症にやさしい街に |
特別賞
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
工藤涼哉 |
高等学校名 |
名城大学附属高等学校(愛知県) |
小論文タイトル |
地場産業はなぜ受け継がれ続けるのか |
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
隈本美桜 |
高等学校名 |
名城大学附属高等学校(愛知県) |
小論文タイトル |
繋げるヒトツバタゴのバトン |
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
犬塚千尋 |
高等学校名 |
学校法人日本体育大学 浜松日体高等学校(静岡県) |
小論文タイトル |
オンライン診療お助け Man を作ろう |
グループ部門
津軽賞(最優秀賞)
受賞者氏名 |
煤田湊、髙橋愛果、大澤小梅 |
高等学校名 |
青森県立五所川原農林高等学校(青森県) |
分野 |
分野2 「技術・環境・食」 |
小論文タイトル |
つがりあんメロン栽培にスマート農業を活用した栽培に関する研究 |
講評
メロンの地域ブランド品種創出を目指す活動の中で、後継者育成、収穫量の増加という明確な目標を持って取り組んだ活動についてまとめられた論文です。新しい環境計測システムを活用し、生産量の増加に向けた最適な栽培条件を探索するという「スマート農業」の可能性を示しています。栽培に最適な環境条件を自ら仮定し、その効果を検証するために手分けして環境管理を行うといった日々の努力が、結果として収穫量の増加という大きな成果の創出につながっています。
高校生が関連団体と協働し、生産者から栽培技術を学ぶとともに、新しい技術をどのように活用すれば新規就農者の支援となるか、そして、より良い結果を生むためにはどう工夫すべきかといったことを自ら考え行動しているところに、地域の農業に貢献したいという気持ちの強さを感じます。課題解決に向けて努力する著者らの姿勢を広く提示していくことは、農業のみならず地域の未来に大きく希望を与えるものであり、「津軽賞」にふさわしい論文であると評価できます。
優秀賞
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
髙田江梨花、倉林くるみ |
高等学校名 |
学校法人高崎商科大学 高崎商科大学附属高等学校(群馬県) |
小論文タイトル |
学校方言の変遷 |
高校生に身近で、それゆえ認識されにくい学校方言を地域文化と捉えた着眼点が秀逸です。
また、インターネットに頼らず、文献調査や高校生としては広範囲なアンケートを行った結果をもとに考えていることも評価できます。
推論を交えつつ変化の要因を丁寧に導き出す研究方法は今後の社会でも重要になってくるでしょう。優秀賞への選出おめでとうございます。
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
藤井悠貴、平悠仁、生塚幸人 |
高等学校名 |
徳島県立那賀高等学校(徳島県) |
小論文タイトル |
森林の循環と人手不足の解消 |
高齢化も進み、年々従事者が減少する地元の林業を維持、発展する施策について、所属する学科の活動を通して得られた知見をもとにまとめられています。林業における課題や、所属学科の設立の背景をよく認識され、保有するリソースを用いて課題を解決する道筋が、わかりやすく述べられています。
関連する参考資料や、木材加工の実習で制作した作品の写真も効果的に用いられており、優秀賞にふさわしいと評価しました。
分野3 「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
岩本菜々美、成田悠乃、葛西芽 |
高等学校名 |
青森県立五所川原高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
運動不足を撲滅 |
本研究は看護師をめざす高校生がグループで、医療における方言の使用・不使用、説明の簡明性・詳細性のいずれが効果的かを調査したものである。本県は方言使用度の高い県であり、医療において高齢者と看護師のコミュニケーションをどう取るかは重要な課題となっている。本グループは街頭での市民・高校生への調査と看護師への調査を行い、このことに迫ろうとした。「運動不足を撲滅」というテーマは、本研究だけからは実証できないが、今後の研究の進展に期待したい。
また、アンケートの設計、サンプル数の明記、「方言イメージ」の差異の考慮等、課題はあるが実際に対象者と面接をした調査をしたことのエネルギーとそこで得られた知見は重要である。
佳作
分野1 「歴史・文化・社会」
受賞者氏名 |
本間義隆、徳田良信、平井利空 |
高等学校名 |
早稲田大学高等学院(東京都) |
小論文タイトル |
飯縄信仰から考える日本における民俗学教育 |
受賞者氏名 |
櫛引心春、本荘光咲 |
高等学校名 |
青森県立青森東高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
「知る」ということ |
分野2 「技術・環境・食」
受賞者氏名 |
柾木智晴、村上日向汰、太田奈那 |
高等学校名 |
青森県立五所川原高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
リサイクルの今と昔 -循環型社会を形成するには- |
分野3「ライフ・健康・教育」
該当なし
特別賞
分野1「歴史・文化・社会」
該当なし
分野2「技術・環境・食」
該当なし
分野3「ライフ・健康・教育」
受賞者氏名 |
山上凛佳、山本衣桜 |
高等学校名 |
青森県立五所川原高等学校(青森県) |
小論文タイトル |
子ども達が幸せに暮らせるために今私達ができること |
小論文投稿数(各集計)
地域別
地域名 |
投稿件数 |
青森県 |
24 |
北海道・東北(青森県以外) |
42 |
関東 |
261 |
中部 |
149 |
近畿 |
26 |
中国 |
4 |
四国 |
4 |
九州 |
6 |
計 |
516 |
※参考 都道府県別の上位3位迄
都道府県名 |
投稿件数 |
神奈川県 |
234 |
愛知県 |
136 |
北海道 |
29 |
部門別
部門 |
投稿件数 |
個人部門 |
477 |
グループ部門 |
39 |
計 |
516 |