第3回 弘前大学太宰治記念「津軽賞」受賞者

全体講評

 北は北海道から南は鹿児島まで、津軽賞へ377件もの応募をいただきました。この度の応募者の皆さまに心より感謝申し上げます。審査にはかなりの時間をかけ、一次審査、二次審査の二段階にわたって実施しました。その結果、二次審査に進んだ論文の中から、津軽賞、優秀賞、佳作および特別賞を選定いたしました。全体を通じて応募された論文の水準は非常に高く、審査委員一同、大変悩みながらも選考を進めました。
 弘前大学では令和4年に高校生を対象とした地域探究論文コンテストとして、太宰治記念「津軽賞」を創設し、個人部門とグループ部門を設けています。本学では、「世界に発信し、地域と共に創造する」をスローガンとして活動し、地域社会、国際社会の発展に寄与することを基本理念としています。現代は「地域の時代」と言われることもあり、地域の課題をスモールスケールで解決する取り組みが、結果としてグローバルな課題解決につながるケースが増えています。そのため、本コンテストで対象としている「地域を題材とする研究」を通じて、地域論を展開し、課題解決に向けた考察を深めることには非常に大きな意義があります。
 今年度から審査委員長として選考に携わり、多くの論文を拝読する中で、その内容の充実ぶりと質の高さに驚かされました。応募論文の多くでは、高校生らしい新鮮な視点から、自ら地域に関連する課題を見いだし、それに対する斬新な解決策を提案していました。地域の歴史や文化を深く掘り下げたもの、地域の具体的な課題を調査・分析したもの、さらには現代社会のニーズを的確に捉えたものも見受けられました。これらの研究活動は、現代社会で求められる「ゼロからイチを生み出す」創造的思考力や課題解決力の涵養にもつながっています。こうした能力は社会のさまざまな分野で益々重要になることでしょう。本コンテストをきっかけに、皆さんが地域に根差し、そして地域の枠を超えて広い視野を持ち、社会に貢献する能力をさらに伸ばしていくことを期待しています。

津軽賞実行委員会委員長
岡﨑 雅明(副学長)

個人部門

津軽賞(最優秀賞)

受賞者氏名 東海林彩華
高等学校名 山形県立谷地高等学校(山形県)
分野 分野1「歴史・文化・社会」
小論文タイトル 欄間が伝える日本家屋の様式美を通して見える世界と対話する〜河北町 豪農 安部権内家〜

講評

 第三回弘前大学太宰治記念地域探究論文高校生コンテストの個人部門における津軽賞(最優秀賞)は、山形県立谷地高等学校、東海林彩華さんの「欄間が伝える日本家屋の様式美を通して見える世界と対話する 〜河北町豪農安部権内家〜」に決定しました。
 作者はふとしたきっかけでそれまで興味のなかった欄間の存在を知ります。そして同じ地域にあり文化財でもある江戸時代から続く豪農の屋敷を訪ねて実際に欄間を目にします。そこに彫られている雁を見て東北地方で古くから信じられている雁に纏わる伝承を想起し、蕪を見て土と共に生きてきた人々の心情を感じます。作者は古い農家の欄間の意匠に触れることで技巧や芸術的意義よりもなお、先人の郷土への愛と郷土の繁栄を願う祈りを感じるのです。また他の日本建築を見て欄間の美しさとその効果を考えます。加えて欄間の醸し出すこれら日本的風情や情緒を文学を引用して表現することで欄間の意義をさらに深く語りかけています。
 欄間は日本建築にごく普通に採り入れられていた要素でありつい最近まで私達の身近な存在でした。今なお目にする機会は多いですが、一般に欄間に注意が払われることはないように思います。このようにともすれば見過ごされている身近な存在が静かながら実は確かに内包している郷土への愛や祈りを見出し、短い論文の中でしっかりと読者の心に訴えてきます。文章も奇を衒わず秀逸で格調高く、読後に清々しい気持ちを抱かせます。津軽賞に相応しい作品であり、多くの審査員が高く評価しました。

優秀賞

分野1 「歴史・文化・社会」

受賞者氏名  佐々木光里
高等学校名  岩手県立大槌高等学校(岩手県)
小論文タイトル  郷土芸能を未来につなぐために

 郷土芸能はその土地の宝ですが、現状では将来の郷土芸能の担い手が不足してきています。筆者はそのことを憂い、目を向けました。本論文では、自分の住む町でなぜ郷土芸能離れが深刻になりつつあるのかについて仮説を立て調査を行い、その解決策を練る過程が前向きな行動力とともにしっかりと描かれていました。郷土芸能は、様々な立場の人たちがそれを紡ぎ、将来につないでいくものであるということを、筆者自身の行動により示していることがとても印象に残りました。受賞おめでとうございます。

分野2 「技術・環境・食」

受賞者氏名  熊谷英里香
高等学校名  岩手県立盛岡第一高等学校(岩手県)
小論文タイトル  久慈市の郷土料理、まめぶ汁を広めよう

 執筆者は、岩手県久慈市の郷土料理である「まめぶ汁」を広めるために、自身が考案した「まめぶプリン」と「まめぶ汁」を提供・販売したり、SNSを活用して「まめぶ汁」の作り方や販売予定を発信するなど、創意工夫を凝らした活動を通じて久慈市の活性化に寄与しています。
 このような活動について明快な論理展開と説得的な結論でまとめられていることを評価しました。今後の活動にも期待しています。

分野3 「ライフ・健康・教育」

受賞者氏名  佐々木美友
高等学校名  岩手県立盛岡第三高等学校(岩手県)
小論文タイトル  探究はなぜつまらないのか

 文部科学省のホームページを見ると、「探究」とは実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現する学習活動のこと、とあります。筆者は、「なぜ探究はつまらないのか?」と課題を設定し、高校生へのアンケートの実施と結果の整理を通して、県などによる探究活動の支援の必要性を論じています。探究活動として非常に斬新な課題設定であると感じるだけでなく、常日頃から疑問や問題意識を持ちながら様々な学習を進めているのだろうと想像させる内容と感じました。今回の津軽賞の地域探究論文執筆をきっかけとして、今後は「いかに探究学習を面白くするか?」という着眼点で、具体的な提案やそれに基づく、より深化した学習を実践してほしいと思います。

佳作

分野1 「歴史・文化・社会」

受賞者氏名  藤岡咲良
高等学校名  大和高田市立高田商業高等学校(奈良県)
小論文タイトル  香芝市と太子信仰をつなぐ簱尾池
受賞者氏名  佐藤昴太
高等学校名  早稲田大学高等学院(東京都)
小論文タイトル  移住者を増やし、オーバーツーリズムを乗り越える~対馬における地域創成~
受賞者氏名  竹森明花
高等学校名  宮城県宮城第一高等学校(宮城県)
小論文タイトル  江戸時代からまなぶ潰れない店の商売
受賞者氏名  町田素香
高等学校名  晃華学園高等学校(東京都)
小論文タイトル  犬猫の未来に向けて〜多摩市での取り組み〜

分野2 「技術・環境・食」

受賞者氏名  雲木美渚
高等学校名  北海学園札幌高等学校(北海道)
小論文タイトル  アニサキス(Anisakis simplex)における行動活性化の条件について
受賞者氏名  青山准也
高等学校名  名城大学附属高等学校(愛知県)
小論文タイトル  鉄道と環境

分野3 「ライフ・健康・教育」

受賞者氏名  菊地祐成
高等学校名  福島県立只見高等学校(福島県)
小論文タイトル  只見町の自然を生かして子供たちを生き生きさせる方法
受賞者氏名  松久保公
高等学校名  茗渓学園高等学校(茨城県)
小論文タイトル  都心直結アクセス抜群!千葉県北西部における公共交通の問題点

特別賞

分野1 「歴史・文化・社会」

受賞者氏名  高槻香太朗
高等学校名  青森明の星高等学校(青森県)
小論文タイトル  アイヌ語地名を活用した災害リスク対策

分野2 「技術・環境・食」

受賞者氏名  鎌田紗羅
高等学校名  青森県立柏木農業高等学校(青森県)
小論文タイトル  シンプル栽培の有用性の探求~「津軽の桃」の生産量向上に向けて~

分野3 「ライフ・健康・教育」

受賞者氏名  大金ゆい
高等学校名  栃木県立宇都宮北高等学校(栃木県)
小論文タイトル  宇都宮を走る稲妻 次世代型路面電車「LRT」にせまる

グループ部門

津軽賞(最優秀賞)

受賞者氏名 中里心南、小田桐優羽、石岡慶太
高等学校名 青森県立五所川原農林高等学校(青森県)
分野 分野3「ライフ・健康・教育」
小論文タイトル 社会関係資本を育む「シェアップル」の活用に関する研究

講評

 第三回弘前大学太宰治記念地域探究論文高校生コンテストのグループ部門における津軽賞(最優秀賞)は、青森県立五所川原農林高等学校、中里心南さん、小田桐優羽さん、石岡慶太さんからなるグループの、「社会関係資本を育む「シェアップル」の活用に関する研究」に決定しました。
 本研究は、先輩の研究を引き継ぎ、未利用リンゴの活用に取り組みました。活用先としてフードバンクに着目し、その過程で貧困問題という新たな課題に直面します。この課題解決に向け、研究グループは貧困問題の専門家に相談するというアクションを起こします。子どもの貧困を取り巻く環境を勉強したのち、未利用リンゴを提供し、子どもの共食の体験機会を創出する、というアイデアを思いつきます。そして、そのアイデアを地域企業や全国のこども食堂と連携して実現させました。
 さらに、活動成果の解析においては、「計量テキスト分析」という方法に辿り着き、アンケートで得たテキストデータを元に、利用者と運営者の複数の視点から解析を行いました。これらの解析で、本活動が感謝や感動、意欲、喜び、というポジティブな感情や、こどもやボランティアとの関係性を想起させることがわかりました。これらのことから、シェアップルがこども食堂の活動を充実させ、利用者の社会関係資本を高めたと結論づけています。
 本研究は、研究の過程で様々な工夫や努力があったこと、さらに得られた結果もシェアップルの有用性をクリアに示していたことが高評価に繋がりました。また、今後も本活動のさらなる発展が大いに期待されることから、津軽賞に値すると審査員の総意で決定しました。

優秀賞

分野1 「歴史・文化・社会」

受賞者氏名  関口宏人、阿部裕斗、小河原悠希
高等学校名  群馬県立館林商工高等学校(群馬県)
小論文タイトル  自作機械による食文化の継承

 地域の食文化を次代につなげていくためには、さまざまなやり方があると思います。その中でも食文化にかかわる道具に注目し、さらに自転車を使った脱穀機を自分たちで作ったというアプローチがとても独創的です。また、小学生へのレクチャーや農家の方々と一緒に活動していることで、地域のつながりを作っていることも評価できます、優秀賞への選出おめでとうございます。

分野2 「技術・環境・食」

受賞者氏名  平戸華凜、山田ひとみ
高等学校名  東京学芸大学附属高等学校(東京都)
小論文タイトル  定点カメラを活用した神奈川県相模原市におけるシカの生態観測

 全国的に見られる大きな地域課題の一つである獣害を取り上げ、定点カメラを利用することにより、シカの生息の実態について調査した結果について考察を行いまとめられています。定点カメラによる頭数把握は、従来方法に比べてメリットが大きく、頭数だけでなく行動パターンについても情報が得られることがわかりやすく述べられています。
 参考文献や図も適切にまとめられており、優秀賞にふさわしいと評価しました。

分野3 「ライフ・健康・教育」

受賞者氏名  白川絢理、太田明理
高等学校名  青森県立五所川原高等学校(青森県)
小論文タイトル  不登校やクラスで馴染めない子供への考察と提案

 今日の学校教育の深刻な問題の一つである『不登校』について、文科省の統計資料とフリースクールの訪問調査が報告されています。
 筆者らは「孤独」を「周りに人がいても自分の心を理解する人がいないこと」も含まれると定義し、SNSの普及がかえってその状況を助長しているのではないかと論を進めています。タイトルに「クラスで馴染めない子供」も加えているのは、そうした「孤独」状況の広まりへの高校生のアクチュアルな感覚なのかも知れません。
 フリースクール調査で「コミュニケーションが難しい子でも安全で安心できる人間関係をつくることによって笑い合ったり、ふざけ合ったりできるようになった」という事例を元に解決にオルタナティブな場の存在が重要だと提案しており、そうした施設が少ない青森県にとっては大切な研究であると言えます。

佳作

分野1 「歴史・文化・社会」

受賞者氏名  能正梨央奈、齊藤泰輔、外川朝陽
高等学校名  青森県立五所川原高等学校(青森県)
小論文タイトル  人口減少に対する解決策としての子育て支援の効果
受賞者氏名  土岐真央、大西希花
高等学校名  青森県立五所川原高等学校(青森県)
小論文タイトル  青森活性化計画

分野2 「技術・環境・食」

受賞者氏名  長利天生、外崎蒼太
高等学校名  青森県立柏木農業高等学校(青森県)
小論文タイトル  農業廃棄物問題解決!リンゴ剪定枝から作る「SMOKE CHIPs」
受賞者氏名  宇賀神明、関琉翔、菅原由麿
高等学校名  栃木県立宇都宮白楊高等学校(栃木県)
小論文タイトル  こてらんない、ちたけの魅力 栃木の食文化について

分野3「ライフ・健康・教育」

受賞者氏名  神凛花、小林寿凪、田村心優
高等学校名  青森県立五所川原高等学校(青森県)
小論文タイトル  西北地域の英語力を上げたい!

特別賞

分野1「歴史・文化・社会」

受賞者氏名  德田良信、本間義隆、平井利空
高等学校名  早稲田大学高等学院(東京都)
小論文タイトル  岡上川井田地区のどんと焼き復活事例から考える民俗行事と地域社会

分野2「技術・環境・食」

受賞者氏名  佐藤凜央、須藤祥悟
高等学校名  青森県立柏木農業高等学校(青森県)
小論文タイトル  青森県の未来を照らす次世代型りんご栽培の実践

分野3「ライフ・健康・教育」

該当なし

小論文投稿数(各集計)

地域別

地域名 投稿件数
青森県 44
北海道・東北(青森県以外) 64
関東 28
中部 184
近畿 8
中国 44
四国 2
九州 3
377

※参考 都道府県別の上位3位迄

都道府県名 投稿件数
愛知県 175
宮城県 45
青森県 44

部門別

部門 投稿件数
個人部門 314
グループ部門 63
377